2016年1月8日
こんにちは、月永です。このシリーズでは、あなたの恋愛に活かせる小説をおすすめしながら読書生活を豊かにするお手伝いをしてゆきます。
今回は、新しい恋へ踏み出すあなたの背中を押してくれる小説をご紹介します。特に、終わったはずの恋にどうしても自分の中で区切りが付かない方におすすめ。
大好きな彼氏・加地くんは、外国の小さな島へ旅行中に命を落としてしまった。知らない女の子と一緒に—。
月日が流れ、奈緒子は加地くんの親友だった巧くんと付き合い始めるけれど、自分の中から加地くんが出ていくことはなく、行き場のない問いはむしろ深まってゆきます。
「なぜ他の女の子と死んでしまったのだろう。どうして隣に座っていたのはわたしではなかったのだろう。
わたしが彼の手を握りしめたかった。
抱き合っていたかった。」
彼の死という形で突然ぷつりと終わってしまう忘れられない恋、そしてそこに見え隠れする裏切りのにおい。真実を確かめようがないぶん苦しみは深く、気持ちの切り替えは難しいでしょう。
しかし、奈緒子には巧くんという存在がいました。加地くんとの思い出を抱きしめて話さない奈緒子に手を差し伸べ、そのままを受け入れようとしてくれます。嫉妬や欲望など自分の中に渦巻く醜い感情に自覚的で、それでも加地くんごと奈緒子を自分のものにしようと決意します。ボクシングという自分だけの世界をしっかり持っていることも魅力的。
いつもどこかで消えてしまいそうだった加地くんとは違って、きちんと地に足のついた男の子です。それを奈緒子も充分にわかっています。
死者に気持ちを引きずられたまま生きるのか、それとも。
終わった恋の苦い後味から逃れられない人も、こうして客観的に他人の恋愛を見ていると気づくものがあるはずです。自分の気持ちに無理やり区切りをつけようとする必要はないけれど、思い出を美化するばかりで「今」に盲目となり、ずぶずぶと沼にはまって気づけば動けなくなっていた、ということのないようにしたいものです。
六編の恋愛小説が収録された一冊。その中の「新しい旅の終わりに」をご紹介します。
携帯電話に突然知らない女性からメールが届き、彼氏と破局。その事情を知る昔の恋人・加納くんに誘われ、温泉旅行に行くことになってしまう真琴の戸惑いを描きます。
「たしかに旅行のことが決まったときには、加納くんと行けることが純粋に嬉しかった。だけどそれだって、一分前までは哲の話を彼にしていたんだよ。なのに、いきなり加納くんが好きだなんて、そんなにお手軽でいいのだろうか」
友人の瑛子に胸の内を吐露する真琴。
ここでわたしだったら、「お手軽のどこがいけないの?」と返すでしょう。恋の始まりの形は様々、切り替えに要する時間も人それぞれ。お手軽だろうが何だろうが、最終的に本物の恋になったら同じではないでしょうか?
失恋から立ち直るには自分から行動を起こさないと何も変わらないとよく言われますが、変わるきっかけが向こうからやってくるなんてラッキーです。しかも相手は、プラトニックな関係のまま終わった昔の彼氏。その誠実さを知っているだけに再び心が動いてしまった真琴は、自分の単純さに呆れている部分も大きいのでしょう。
不器用な二人の温泉旅行、微妙な関係はどのように動くのでしょうか?再読するたびにどきどきしてしまう物語です。
いつまでも一人で恋のお葬式をしていられるほど、人生は短くありません。差し伸べてくれる手があり、そこにときめく自分が確かにいるのなら、心の声に耳を傾けてみましょう。来年も再来年も、同じ場所に留まっていたくないのなら。
もちろん、差し伸べられる手が弱っているあなたにつけ込もうとする悪い誘いである可能性だってあるかもしれません。判断能力が鈍っているという自覚があるのなら、理性的になる時間を持ちましょう。客観的な視点を得るためにも、読書は有効です。