2017年7月4日
夏のうたは力強い生命力にあふれています。哀愁のある作品もたくさんあります。
ドラマチックな短歌、現実的な短歌など夏に読みたい現代短歌を紹介しましょう!
「あさがおが朝を選んで咲くほどの出会いと思う肩ならべつつ」吉川宏志『青蝉』
「しょせんあさがおは朝だけの花」とつぶやく一方、「昼になるとしぼんでしまう。急がなければ!」と嘆いているようにもとれます。
ひとつの作品で正反対のおもいを両方表現するのはむずかしいもの。作者の腕の見せどころといえるでしょう。
「ふるさとの木に近づけば蝉黙るそんなに恐くないさ僕だよ」高野公彦『水行』
高野公彦は愛媛県出身。帰省したとき久しぶりに見かけたセミに、おもわず子どもの頃とおなじ調子で語りかけました。「ぼくだよ、恐がらないで」と。
「蟷螂のぎりぎり荒む一瞬の美しければわが日々を恥づ」小中英之『わがからんどりえ』
至近距離で見るカマキリの美しさと日々の生活を対比させました。カマキリを観察しているだけですが、なんともいえない官能的な美しさがにじみ出ています。
「サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい」大滝和子『銀河を産んだように』
お気に入りのサンダルを履いた、女性の心情をうたう作品。母性を感じさせる、スケールの大きさが魅力。
女性が産めるのは子どもだけではありません。熱帯夜は青いサンダルを履いて、ぜひ銀河を産んでみませんか? きっと暑さが吹きとびますから!
「脳のなきくらげ涼しく心もつ人は苦しむくらげ愛でつつ」馬場あき子『記憶の森の時間』
脳のないくらげを見て、心をもつ人は苦しむ。憎いほど的確な指摘に、はっとさせられました。
「炎昼の新宿を歩むからだから醤油のような影流れ出す」吉川宏志『青蝉』
醤油のような影は、しょっぱいのでしょうか。汗や血液にもふくまれるナトリウムを連想しました。ひとことも「暑い」とうたっていないのに、真夏の昼間の熱気が伝わってきます!
同様に身体感覚を生かした作品をもう1首。
「マラリアに打ち勝つといふ鎌型の赤血球おもふ汗ばむ午後に」栗木京子『けむり水晶』
鎌型の赤血球とは、迫力満点の表現。すこし不気味ですが、何度も読んでいるうちに、なぜか心地よくなってきました。ふしぎですね。
「飲食といへど夏の日とがりたる氷ばかりに舌の荒れたり」小中英之『わがからんどりえ』
毎日暑いと、つい氷を食べつづけて舌が荒れてしまう。夏祭りやビーチではなく、そんな日常に季節を感じる。新鮮で繊細な感覚です。
「あの夏の数かぎりなきそしてまたたったひとつの表情をせよ」小野茂樹『羊雲離散』
夏は何度も来る。日本にも地球にも、自分にも他人にも。でも「あの夏」は、一度きりの特別な季節。たった一度だけの夏の表情は、さぞかし輝いているのでしょうね。
木々の葉が濃く厚くなる夏。子どもたちが元気に走りまわる夏。夏に読みたい名歌は光と陰のコントラストがあざやかです。一瞬と永遠が交叉するドラマをぜひ短歌で味わってみてください。