2016年1月5日
このシリーズでは、毎回小説作品を取り上げながら恋愛アドバイスをしてゆきます。リアリティーがあって恋愛や生活に活かせるだけでなく、読み物としても優れたものばかりをご紹介します。
豊かな読書は豊かな人生を作ります。あなたの知性と人生に、少しでも役に立ちますように。
今回のテーマは同棲です。
最近、同棲を解消したという友人の話を聞いて、いろいろと思うことがありました。他人同士が生活を共にするのだから当たり前ですが、相手を知りすぎることを恐れすぎてもだめ、受け入れすぎて流されてもだめ。そういったことにどのくらい自覚的だったのだろう、そして生活の上でのルールはどのくらい決めていたのだろう、などと。
筆者にも、2回ほど同棲の経験があります。
最初の1回は、2年ほど続きました。お互いまだ若かったせいもあって喧嘩が絶えず、最後の方は混沌として何がなんだかわからなくなっていました。
2度目の同棲は、1年ほど。途中いろいろありましたが、結婚に至りました。今のダンナです。
どちらの経験にも苦い思い出があります。
同棲を始める上で必要なことは、細々と挙げればきりがありません。生活費はどのように案分するのか。家事分担はどうするのか。休日はどうやって過ごすのか。そして、いずれ結婚を目指すのか否か。たくさんのルールを作り、目標を定め、価値観をすりあわせながらやっていくことになるでしょう。
今回は、大きなキーワードを「結婚」と「お金」に絞り、同棲をテーマにした小説を紹介しながら考えてみたいと思います。
いつも仕事で疲弊している絃(ゆずる)と同棲して1年近くになる奈代(なよ)は、同棲の延長上には当然結婚があるものと信じています。一方、マイペースで少々神経質な絃は「人と一緒に住むことがこんなに大変とは思わなかった」と感じており、一緒にいても自分の殻にこもってしまったり、クリスマスを目前に一人で海外旅行に行ってしまったり。
いつまでも煮え切らない彼に焦れてしまった奈代は、とうとう「私たちこれからどうするの」の一言をぶつけてしまいます。
この小説では、男と女の考え方・感じ方の徹底的な違いがリアルに描かれています。彼との結婚願望を強く持ち続けるもののなかなか言い出せない不器用な奈代と、結婚に夢を見ておらず自分のペースを乱されることを嫌う絃の歯車は、きしみながらどんどんずれていってしまいます。
いったん二人がすれ違い始めてしまったら、彼の気持ちが結婚に傾くのを期待するのはかなり絶望的。ただでさえ同居生活は出会った頃の新鮮さを根こそぎ奪うものなのに、険悪な雰囲気の中でどうやって結婚へのモチベーションが上がるでしょうか。
こんな辛い事態を避けるため、同棲を始めるにあたっては「結婚」を目標にするかどうかをしっかり彼と話し合っておくことが重要なのは自明の理です。また、「いつか」「そのうち」「落ち着いたら」などといった漠然とした目安ではなく、「1年間問題なく同棲できたら」「次のクリスマスに」「来年の記念日に」など、必ず具体的な目標を立てましょう。
ただぐずぐずと生活を続けるだけでは、マンネリが進むだけです。籍を入れる必要性すら感じなくなってしまうかもしれません。たとえ、結婚の話題は彼からサプライズの形で聞かされたいと期待していたとしても、後からみじめな状況になるのを避けたいならば、多少気まずくても結婚についての話し合いは必要不可欠となります。
「彼の自分と違うところを愛し、彼の自分と違うところにさびしさを感じる」という奈代の心のつぶやきは、恋人のいる人なら心に響くはず。
一緒に暮らせば、知らなかった相手の一面が次々と顔を出し、悩むこともあるでしょう。どこまでなら折り合いを付けられるか、どこからは受け入れられないか。本当にこの人と結婚していいのか、同居を通して彼があなたを見極めるのと同様、あなた自身もしっかりと彼を見極めましょう。後悔のない人生を送るために。
34歳フリーターの「私」と同棲相手のヤスオは、「外にいる方が買い物をして帰る」というざっくりした取り決めで生活しています。しかしいつしか、帰りが遅くなることの多い自分とヤスオの負担比が7:3であることに気づいてしまい、さらにはある日突然ヤスオが仕事を辞めてしまいます。自分一人に重くのしかかる生活費。
仕事を掛け持ちし、サラ金でお金を引き出し、なんとか当座をしのぎ続ける生活。しかし厄介なことに、昔旅先でつるんだだけの男が彼女連れで転がり込んできてしまい、実家の母親からはホテル泊をプレゼントしろと迫られ、受難は続きます。
語り手の「私」がこのような窮地に陥った原因としては、大きく二つ挙げられます。
一つ目は、二人がきっちりした生活設計を立てず、曖昧なルールで支払いを済ませてきたこと。たとえば、「何があっても生活費は割り勘」「レシートをとっておいて月に一度清算」など、揺るがない決め事をしておけば、このような事態は避けられたはず。
甘い生活を夢見て同棲に突入する二人にとっては、あまりにも色っぽくない、生活臭のする決め事をするのは億劫なことでしょう。しかし、生活の根幹となるお互いの金銭感覚を知る上でも、そしてどちらかの失職など不測の事態に対応するためにも、お金に関するルールはしっかり取り決めておきましょう。
そして二つ目は、「私」が恋人のだらしなさを思い知りながらずるずると同棲を続けている点。
ヤスオは自分の職場を「タマシイがない」と罵って辞め、再就職先を探すにあたっても「何をしたってつまらなく思える」とぐずぐず言い訳して動きません。何より大事な失業保険の面接の日さえすっぽかしてしまいます。そして無収入にも関わらず、食料を買って帰る彼女に酒やアイスの味や銘柄まで指定してきます。
読者なら誰しも、「早く別れなよ!」とじりじりすることでしょう。どの程度であれば恋人に金銭的負担を負わされても耐えられるか、どのくらいだらしない面を見ても失望せずにいられるか、同棲を始める前にイメージしておくことが大切です。
今回紹介した2冊の本とアドバイス、参考になったでしょうか。
同棲は、事実上の新婚生活です。毎日共に過ごせることに酔いしれるばかりでなく、ときめきのピークを使い切ってしまうことへの覚悟を持ち、生活基盤をきちんと整え、先の人生へのビジョンをしっかりと描いてから始めましょう。