2016年1月18日
こんにちは、月永です。このシリーズでは、あなたの恋愛に活かせる小説をおすすめしながら読書生活を豊かにするお手伝いをしてゆきます。
さて、皆さんは頑張っているつもりなのに男性に引かれてしまったことはありませんか?
努力が空回りしたり、精一杯のアピールが届かなかったり、手応えを確信したはずの恋が続かなかったりといった経験は、誰しも一度はあると思います。
今回は、そのあたりの男性側の心理をわかりやすく描かれた小説をご紹介します。
八つの短編が収録された一冊です。語り手は皆、何かを待ち望む女性たち。中央線沿線の町を舞台に、痛々しいほどリアルな物語が展開します。
その中の一編「ツウカマチ」を読みながら考えてみましょう。
彼氏いない歴更新中のさおり。合コンで出会った敬太郎に恋の始まりの手応えを感じていました。しかしいつのまにか彼は友人・初乃の恋人になっており、二人はあっという間に結婚してしまいます。複雑な思いを胸に二人の新居へ遊びに言ったさおりは、男友達を紹介され、デートへと至りますが…。
30代も半ばを過ぎたさおりは、恋する相手とことごとく上手くいかない自分をある程度客観視できています。そして、失敗の理由を男性の心理に結びつけて次のように分析しています。
「男の人はたいてい何かをこわがっている。十六歳のときから約二十年かけて、私はそのことを学んだ。私が男の人との交際にこぎつけられないのは、私が彼らをこわがらせるからだ。(中略)
いきすぎた行動をすると、その裏側にあるものを勝手に想像して男はこわがる。かといって、自己アピールにも男の趣味にも無関心でいると、その無関心をこわがる人もいる。強すぎる愛情も弱すぎる愛情も男はこわがる。未来への期待も男をこわがらせ、過去への執着も男をこわがらせる。」
これは恋愛における普遍的な真理ではないでしょうか。
自分に近づいてくる女性のどこかに違和感や不快感を覚えた男性は、疎ましいとか煩わしい、面倒くさいなどと意識する前に、本能的に「こわい」と感じているのです。何か、望まぬものを押し付けられるのではないか。面倒な思いや居心地の悪い思いをさせられるのではないか。自分のリズムやペースを乱されるのではないか。相手に悪気がないことをわかっていても、そうやって無自覚に自分を浸食しようとすること自体に恐怖を覚えてしまうのです。
新妻にふさわしい自分をアピールしたり、相手の好きなアイドルの髪型を真似したり、相手の好きな音楽を調べ上げすぎて相手よりマニアックになってしまったり。自分の醸し出す「過剰」に恐れをなした相手が去ってしまうパターンに気づいたさおりは、新しい恋を慎重に扱っていたはずなのですが…
「初乃と野田敬太郎が速攻でうまくいったのは、初乃の押しの強さは敬太郎をこわがらせなかったからだ。彼がこわがっていたのは、私がくりかえしたような、どっちつかずの食事の誘いだ。」
同じことをしても人によっては平気だったり、こわがられたり。受け身でいた方が楽な男性もいれば、中途半端に示される好意にひいてしまう男性もいます。
相手がどんなタイプなのか見極めが大事なのはもちろんですが、そこまで深く考え抜かなくてもさくっとうまくいってしまうことだってもちろんあって、それをわたしたちは何気なく「気が合う」「フィーリングが合う」などと形容しているのでしょうね。
アプローチの段階でなんだか相手の態度に違和感を感じたら、彼はあなたをこわがっているのかもしれません。自分がやりすぎじゃないか、あるいはわかりにくすぎないか、一度冷静に考えてみましょう。
もしかしたら、残念ながら単純に恋愛の感覚が合わないのかもしれません。一度相手に植え付けてしまった恐怖心を取り除くのは大変ですし、墓穴を掘ってよけいに印象を悪くしたら元も子もありません。どこかですっぱり諦める覚悟も必要でしょうね。
角田光代の小説は、とにかくリアル。ドラマチックな演出ばかりの小説とは一線を画します。恋愛に失敗したくない人はいろいろ読んでおくと参考になります。このシリーズでもまたご紹介しますね。