2016年1月12日
こんにちは!今回のテーマは片想いです。
誰かを好きになり、その恋人になりたいと願うようになったら、まずはその相手に恋人がいるかどうか、さりげなくリサーチしたりしますよね。年齢や状況によっては、そもそも未婚かどうかも気になります。
どうやら恋人も奥さんもいなそうだとわかっても安心できません。心の中まではなかなか探れるものではありません。もしかしたら、彼にも好きな人がいるかも。
それを知ってしまったとき、その時点で気持ちの進行をストップさせてしまう人もいれば、それでも振り向かせたい!と願う人もいるでしょう。
少しでも参考になればと思い、今回はこの小説をご紹介します。
風吹(ふぶき)は、恋愛経験の乏しい25歳。鍵の壊れたスーツケースを直しにきた鍵屋に恋してしまいます。
不器用ながらも努力を重ね、彼との距離を縮めようとする風吹。しかし、彼とある女性との生々しいキスシーンを目撃してしまいます。彼もまた、少々厄介な恋をしていたのでした。
恋に落ち、恋に悩む描写が卓抜です。
「鍵屋が若い男だということは、ひと目見たときに気づいていた。ひと目見たときから気づいたことはほかにもあった。でも、まだ、ことばにはならなかった。」
「ああ、なのにわたしは、と感嘆符を用いて風吹は思う。
埒が明かないことに首を突っ込もうとしている。首ばかりか、からだごと狭っ苦しいところに入り込もうとしている。」
彼氏に浮気されてしまう親友、家庭教師先の大人っぽい中学生、恋愛経験豊かな弟など、個性的なサブキャラクターたちも物語の世界を豊かなものにしています。
風吹の住むコーポの大家は、七十歳なのに艶があり、どこか謎めいている老女。悩む風吹にこんなアドバイスをします。
「好かれようとしないことよ」
「ふっと思ったら、それに従ったほうがなにかといいのよ」
簡潔で含蓄深い言葉たちが、風吹と一緒に読み手の心もつかんでゆきます。
不器用でどうしようもない風吹のもどかしい恋の展開を追ううちに、自分の中の答えも導きだせるかもしれません。終盤近くの「恋はひとを選ばない。ひとも恋を選べない。」というフレーズがそのヒントになりそうです。
恋のライバルが最後に放つ言葉もなかなか強烈で、人間くさくて、印象的。
作者独特のテンポや空気感にはまってしまうこと必至の一冊です。
なかなか報われない恋に疲れてしまったときは、小説やエッセイで気分転換をはかるのがおすすめ。さりげない一行に救われた経験が筆者にもあります。
文体や言葉選びのセンス、世界観などが自分にしっくりくる作家をあらかじめ発掘しておくといいですね。