2017年3月15日
卒業・入学・就職・転職・転勤・引越しなどで、生活が変わる春。
服を新調したり、初対面の人に会ったりして、ハリがある季節ではありますが、緊張しますし、いそがしい日が続きますよね。
そんなとき、小説を1冊読破するのはタイヘン。でも、雑誌と実用書ばかりじゃ味気ないし…とおもうことはありませんか?
あわただしい新生活の中で、気軽に読むことができて、しかも深い余韻があるモノといえば、短詩型文学がおすすめ。
今回は、春をモチーフにした【現代短歌】6首を集めました。
「白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう」斎藤史『魚歌』
「白い手紙」や「うすいガラス」など、小道具と場面設定が生きていて、いかにも、春の光が降りそそぎそうな作品ですよね。
ガラスに映りこむ景色のあざやかさや、春を待つ作者のワクワクする心が伝わってくる秀歌だといえるでしょう。
次に紹介する2首は、同じ作者の作品ですが、どこにでもある、さしてめずらしくもない野菜を出して、自分の心境をうたっています。
「馬鹿げたる考へがぐんぐん大きくなりキャベツなどが大きくなりゆくに似る」安立スハル『この梅生ずるべし』
キャベツやキュウリは不思議なもので、少し見ない間に大きくなっていて驚くときがあります。
そんな野菜の生長を、作者は、「頭の中で妄想がふくらむ様子のようだなあ」と思ったのでしょう。
夢かうつつかわかりませんが、楽しい発想ですよね。
「努力さへしてをればよしといふものにもあらずパセリを刻みつつ思ふ」同
芳しい結果が出ないとき、「努力がたりないからだ!」といわれて、カチンとくることは少なくないものです。そのときには、がんばって笑顔でいても、ひとりで料理をしていると、ふっと悔しさがよみがえってくることも。
そんな、心理の行間に注目した非凡な1首。
春の代名詞といえば、やはり「桜」ではないでしょうか。
日本を象徴する花であり、当然のことながら、短歌や俳句には、桜を詠った名作がたくさんあります。
つぎに紹介する作品は、クラシカルな作風ですが、ひねりが効いている玄人好みの1首です。
「桜咲き満ちたれば不意にさしぐみぬわれに一万日の過去あり」林清和『ゆるがるれ』
内容自体は、桜を眺めていると涙ぐんできて、自分の生きて来た年月を思うなあという、どこにでもありそうなものです。
しかし、「27年の過去」ではなく、「10000日の過去」と言い換えたことによって、うねりが出ました。
31音と短いポエムである短歌は、このような小さな言葉の仕掛けや工夫が、作品全体の印象を大きく左右します。
「わたくしの何かを覆い隠すため服が要るまた新しい服」畑谷隆子『シュレーディンガーの猫』
「この春は捨てたい捨てねば捨てようと捨てさるまでを桜はらはら」同
激しい感情を紡ぎこんだ、鋭いうた。
同じ言葉を何度も繰り返したり、少しずつ言葉を変えながら、同様の内容を詠っています。
短詩型文学は、自然の美しさを愛でる文芸だとおもっている人が多いのですが、実は短歌は、このような強い葛藤を盛り込むことにとても相性が良い詩形なのです。
春に読みたいうた、もしくは、春を詠んだうた6首を紹介しました。
結びの『シュレーデインガーの猫』は、職場詠に名歌が多く、不条理な立場で働く女性の葛藤をエスプリの効いた感性で表現しています。
仕事や学業に行き詰ってしまったときに、この歌集を開くと共感できるかもしれませんよ。